スマイルカーブ
- 4 日前
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先日、経営コンサルタントでもあるKさんのfacebookの進水式の投稿を拝見し、とても考えさせられました。30億円規模ともいわれる巨大なケミカルタンカーが船台から海へ滑り出していく瞬間は、まさに日本のものづくりの迫力を象徴する光景でした。
このタンカーの舵を取るのがKさんの弟さんであり、進水後に船を安全に誘導するタグボートは親戚の海運会社が担当していたそうです。
今回進水したのは、インドネシアの貿易会社が発注した、化学薬品を運ぶためのケミカルタンカーでした。世界シェアダントツの中国、それに続く韓国ではなくなぜわざわざ日本に建造を依頼するのか。
その理由として挙げられたのが、「日本で作ると安いから」という言葉だったそうです。もちろん、日本の造船には高い技術力があります。精度、耐久性、安全性、品質管理、どれをとっても世界トップクラスです。
しかし発注側が最も重視していたのは、技術そのもの以上に「約束通りの納期で、しかも安く仕上がる」という点でした。つまり、日本は高品質でありながら価格競争力まで持っているということです。
本来であれば非常に強い競争優位のように思えます。しかしここに、日本製造業の複雑な現実があります。同等の船をシンガポールで建造すると費用はさらに高くなり、地域によっては日本の倍近い価格になることもあるそうです。
それでも日本側は「安く、早く、正確に」を武器に受注している。これは顧客から見れば非常に魅力的ですが、造る側から見れば利益を圧縮しやすい構造でもあります。
努力して品質を高め、工程を効率化し、納期を守るほど、価格面で比較されやすくなるという皮肉な構造です。
この現実を説明するのに非常に分かりやすいのが「スマイルカーブ」という考え方です。これは事業全体の流れを横軸に置き、各工程で生まれる付加価値や利益率を縦軸に取ると、曲線が笑った口のようなU字型になることから名付けられました。

左側の上流には研究開発、企画、設計があります。ここでは「何を作るか」「どんな価値を持たせるか」を決めるため、独自性が生まれやすく、利益率も高くなります。たとえば新しい燃費性能や特殊用途に対応した船の設計思想そのものが価値になります。
ここでは技術が知的資産になり、価格を決める力につながります。中央の中流は製造・組立です。ここがスマイルカーブの最も低い部分です。どれほど高度な技能が必要でも、発注者から見れば「図面通りに確実に作る工程」として比較されやすくなります。品質が高くても、競争軸は「いくらでできるか」「いつ納まるか」に集中します。日本の造船業はまさにここに位置しています。
右側の下流には販売、ブランド、アフターサービスがあります。ここでは単なる製品ではなく、「この会社から買いたい」「長く付き合いたい」という信頼そのものが利益になります。船であれば長期メンテナンス契約や運航支援まで含めて提供できれば、価格比較から一歩抜け出せます。
Kさんが「スマイルカーブ理論の底にいるのが日本の製造業の現実だと実感した」と書かれていたのは、まさにこの構造を目の前で感じたからでしょう。高い技術があり、納期も守り、品質も優れている。それでも評価される言葉が「安い」になるとき、利益の主導権は相手側にあります。以前、「価格を決める側と決められる側」という話を書いたことがありますが、利益に最も大きく影響するのは価格です。
価格を自ら決められない受注型では、努力しても利益率は上がりにくい。だからこそ「安くて良い」から「高くてもお願いしたい」へ移る工夫が必要になります。この話は造船業だけではありません。自分の事業を振り返ってみても、気づけばスマイルカーブの底で、誰かが決めた条件の中で勝負している場面があります。どこで独自性を作るのか。どこで価格決定権を持つのかを考え事業構造を変えていきたいと思います。
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