本当に強い会社を作る経営者は、貸借対照表をしっかり見ている
- 辻 敏充
- 2023年9月15日
- 読了時間: 9分
更新日:2024年8月7日
昨年P/Lの小冊子を書き上げました。次はB/Sを書くと宣言をしていました。ようやく小冊子となりました。第一章を公開させていただきます。興味を持たれた方はご購入いただけますと幸いです。
B/Sの小冊子のご購入はこちらからです。

第1章 いまさら聞けない「貸借対照表って何なの?」
■貸借対照表とは会社の財産目録なんだよ
「師匠、前回は利益の話をありがとうございました。たくさんの図を使って説明してくださったのでとても分かりやすかったです。でも、前回の勉強会の最後に〝貸借対照表の話が終わってないからね〟とおっしゃったのが気になったので、自社の貸借対照表をじっくり見てみました」
「そうか~。会計に興味がわいてきたのは良いことだね。ところで、貸借対照表を見てどうだった?」
「それが……、分かったような。分からなかったような。一番不思議だったのは、貸借対照表の右下に利益剰余金という謎のお金です。うちの会社にあんな大金はありません。あのお金はどこにいったんですか? その疑問を解くために今日、師匠のお話を聞きに来ました」
「剰余の後に『金』がついているから、お金のことだと思うよね(笑)。だけど利益剰余金はお金じゃないんだよ」
「えっ! 金ではないんのですか? するとあれは何ですか? 隠し財産ですか?」
「隠し財産ではないよ(笑)。利益剰余金の説明の前に、貸借対照表とはどんなものか? を説明していくよ。貸借対照表という固い名前なので、難しいことが書いてあると思うよね。でも、そんな難しいことは書いてないんだよ。実は、中国では貸借対照表のことを資産負債表といっているんだよ」
「へぇー、資産負債表ですか。貸借対照表よりも身近に感じますね」
「資産負債表という名のとおり、ある時(通常は決算日)の会社の資産と負債の残高を書いてある表なんだよ」
「そうですか~。貸借とかいうからもっと難しいことを書いてあるような気がしていました」
(師匠の説明)
では、貸借対照表を説明していくよ。
貸借対照表は英語で『バランスシート』、略してB/Sともいわれている。決算日における財務状況を表している。また資本の調達先とその運用先が分かるともいわれている。
一方、損益計算書は英語で『プロフィット アンド ロス ステイトメント』、略してP/Lともいわれている。一年間の企業の経営成績。どれだけ儲かったかを表している。
では、イメージしやすいように個人を例にしてこのP/LとB/Sの説明をするよ。
< P/L >
P/Lは1年の年収から使った費用を引いて、「その年に貯金ができたのか?」「お金が不足して借金したのか?」を示しているんだよ。(図1)
【図1】

< B/S >
B/Sは年末時点にある貯金、家や車のような財産と借入残高の一覧表なんだよ。
辻君がその年に、かなり稼いで貯金をしたとしても、お父さんが大きな借金を残していたら、辻家はピンチのままだよね。(図2)
要は、収入と資産(負債)の両方を見ないと、その家の状況を正確に把握できない…ということだよ。
【図2】

同じように会社の場合も、P/Lが1年間の成績、会社の勢いを表している。そして、P/Lは全社員で作るものといわれているんだ。利益を上げるには、社員さんの協力がなければできないよね。(図3)
【図3】

それに対してB/Sは、決算日での財産目録…すなわち、単年度ではなく、今までの成績、歴史を表しているんだ。(図4)
また、B/Sは社長が作るものといわれているんだ。土地を買うのも、工場を建てるのも最終は社長の決裁が必要だよね。どんな資産を買うのか? どこからお金を調達してくるのか? は、社長しか決められないからね。
【図4】

■この取引で財産目録はどう変わっていくの?
「師匠、ありがとうございます。せっかく説明をいただきましたが、分かったような……、分からないような……、ふわふわした感じです。今日、私が一番知りたい利益剰余金の説明がないので、そちらの説明をお願いします」
「そうだよね。まだP/LとB/Sがどういうものかを説明しただけだからね。では、利益剰余金の説明に入る前に、個人を例にして資産、負債、資本を説明していくよ」
(師匠の説明)
辻君が自分の貯金から1万円、親から1万円を借りて合計2万円で商売を始めたとするよ。
この取引を後で見ても分かるように記帳していくよ。まず左側に現金2万円と書いてみよう。この2万円がどこから用意してきたお金かが、あとからでもわかるように右側に、両親から借りた1万円、自分で出した1万円と書いておくんだ。
記帳のルールは、左側をお金や将来お金になるものを(売ればお金になる商品、回収したらお金になる貸付金)。右側にお金の調達先を書く。これで、左右の合計金額は同じになる。この取引を会計の仕訳っぽくすると図5のようになるんだよ。
【図5】

さあ、この2万円を元にしてワイン販売を始めたとしよう。
まずはワインを仕入れてくることから始まるよね。1本1万円のワインを現金で2本買ってきたとする。現金で支払うから、左側のお金になるものは2万円のワインだけだよね。またこれを仕訳っぽく書くと図6のようになる。
【図6】

この仕入れてきた2本のワインが3万円で売れたとする。この取引で、2万円で仕入れたものを3万円で売ったので1万円の利益が出たわけだ。
図4の左側のお金になるものは、ワインが手元からなくなって現金が3万円になるよね。右側は、親から借りた1万円、自分で出した1万円、これだけだと2万円になるから左右の金額が同じにならないね。
どうするか?
売ったときの利益の1万円をここに入れるんだよ。そうすると図7のようになるんだよ。
【図7】

ワイン販売に少し自信ができたので、ワイン卸業者からクレジット払いでワインを5本買ってきたとするよ。左側のお金になるものは、現金3万円とワイン5本。右側のお金の調達先は、両親から借りてきた1万円、自分で出した1万円、利益の1万円。それにクレジット払いの5万円だから、図8のようになるよね。
ここまで大丈夫かな?
【図8】

「師匠、とても分かりやすいです」と答えたものの、「どこで利益剰余金が出てくるのだろう?」と、かなり不安な状態……。
(師匠の説明)
もうすこしで利益剰余金が出てくるので、このまま説明を続けるよ。
商品のワイン5本のうち4本が6万円で友達に売れた。だけど、今お金がないから月末まで支払いを待ってくれと言われた。この分は友達へお金を貸していることになるよね。
そうすると、左側のお金になるものは、現金が3万円、ワインが1万円、友達への貸付が6万円になるよね。右側のお金の調達先は、両親から借りてきた1万円、自分で出した1万円、それにクレジット払いが5万円。今回の取引では2万円儲けたので利益の合計が3万円となり、図9のようになるよね。
【図9】

そして、この図9を一般的な会計で表現すると図10のようになるんだよ。
今までお金になるものと言っていた項目名が貸方。左側のお金の調達先と言っていた項目名が借方となるんだよ。
(貸方)と(借方)は、あまり深く考えず覚えるしかないよ。
次はその中身の説明に入っていくよ。
まず左側のお金になるもの(貸方)の現金は、会計でも現金になるんだ。友達への貸付は会計では売掛金になる。ワインは商品になる。
右側のお金の調達先(借方)の説明へいくよ。クレジット払いは、会計では買掛金になる。両親から借りたお金は、すぐに返す必要がないから長期借入金になる。自分で出したお金は資本金になる。そして、利益が利益剰余金になるんだ。
ようやく辻君が知りたい利益剰余金が出てきたね。
【図10】

「やっと出てきました。でも、まだよく分かりません。さらに分かりやすい説明をお願いします」
■利益剰余金って隠し財産のこと?
(師匠の説明)
利益剰余金の説明の前に、さっきの図10を会計で使う貸借対照表のフォームに書き直すと図11のようになるんだ。では、この貸借対照表の読み方を説明するよ。
図5~9で左側のお金になるものと言ってきたものは、会社の財産を表しているんだよ。
右側のお金の調達先は2つに分かれるんだ。右上、これは借りてきたお金を表している。そして、右下は「会社の財産」からう「借りてきたお金」を引いた差額なんだよ。
【図11】

「師匠、差額の意味がよく分かりません」
「そうか~。では、この貸借対照表についてさらに詳しく説明をしていくよ」
(師匠の説明)
左側は、会社の財産を表すと言ったよね。会計的には資産と呼ばれている。会社の持ち物リストといってもいいと思う。右上は、借りてきたお金を表し、会計的には負債と呼ばれている。会社の借金リストともいえる。
会計的には、この資産から負債を引いたものを純資産と呼んでいるんだ。(図12)純資産というと、ちゃんと会社にあると思うよね。
【図12】

「はい、ちゃんと会社にあるように感じます。師匠、実際にちゃんとあるのですよね?」
「じつは、〝ちゃんとある〟という理解は危険なんだよ。前回のP/Lの話でも固定費といわずに経費といったよね」
「そうですね。固定費というと売上が変動しても金額が変わらないと思うから、経費と呼ぶとおっしゃっていましたね」
(師匠の説明)
それと同じで、純資産というと、この資産を持っている…と勘違いしてしまうので、緑の部分は「単なる差額」だと思ったほうが安全なんだ。
別の言い方をすると、
・ 資産とはお金とそれに近いもの、機械や工場のように将来お金をもたらすもの。
・ 負債は将来返すお金。
・ そして、純資産は、会社を売ったときに、もらえるかもしれない金額。
経営者はこう考えた方が良いと思う。
ちなみに中国語では、利益剰余金のことを所有者権益と呼んでいる。こちらの方が純資産よりもよりも分かりやすいね。(図13)
【図13】

「師匠、もらえるかもしれないってどういうことですか?」
「仮に、資産の中の土地が、バルブ以前に1億円で購入したものだとしよう。これって、今ならどのくらいで売れるかな?」
「よく全く分かりませんが、1億円では売れないでしょうね」
「そうだよね。会計上の資産は、その土地を買った時の価格で記載されている。今の評価額は、分からないんだよ。1億円で購入した土地を実際に売ってみたら3千万円にしかならなかったとしよう。そうすると7千万円の評価損が発生することになる。
そして、図14のように評価損によって水色の高さが低くなるわけだ。それに伴って緑の部分も低くなるよね。だから、実際に土地を売ってみないとこの評価損は表面に出てこないんだよ」(図14)
「なるほど~。売ってみないと分からないのか~」
「先ほど言ったとおり、水色の資産に表示されている金額は、購入時の価格で、今の時価とはいえない。商品の場合なら、その商品に不良在庫が含まれているかもしれない。売掛金なら回収不能な売掛金が含まれている可能性もある。したがって、水色の資産の部分、緑の純資産も確定しない。だから、もらえるかもしれないといっているだよ」
【図14】

「なるほど~。ということは、利益剰余金というお金は実在しないものなんですね」
「そうなんだ。純資産と思っているだけで、現実には存在しないケースが圧倒的に多いんだ。だから、持っている資産と借りてきた負債との差と思った方が安全なんだ」
「そうですね。そんな幻のようなお金や資産を真に受けてしまうと、脇が甘い経営になってしまいますね」
「もう少し貸借対照表の説明をしていくよ。左側は、資金(お金)の運用先、集めたお金をどう使っているか? お金の使い道を表している。右側の負債や純資産は、資金(お金)の調達先、どうやってお金を集めてきたのか? お金の出所を表している…といわれているんだ」(図15)
【図15】

「辻君、ここまで大丈夫かな?」
「はい、なんとか……」
「よし、次は貸借対照表のルールに入っていくよ」
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